羽曳野BROOM

2017年3月21日火曜日

なぜ安い古着(服)しか売れないのか。打開策はないのか。



統計を取ったわけではないので確かなことはいえませんが、近年、古着業界ではヴィンテージはあまり売れず、売れる服の低価格化が進んでいると認識しています。
実際、そういう声をよく聞くのと、公開されるアンケートなどでも、「洋服に掛ける金額」などのアンケートでもそうした結果が出ています。

※参考
洋服に月30000円以上使う男性は100人に1人もいないことが明らかに。
働く女性の約6割が月に1万円も洋服にお金を使わない。
洋服に月30000円以上使う女性は100人中6人。

今日公開された熊本のインディーズTシャツブランド「DARGO」のナリマツさんが書かれた「大宰府で開催された「THOUGHT」へ行ってきました」の記事の中でも、クリエイターさん達の間で「アパレルが売れない」という議論の中で「これはひとつの見解でしかないが、芸能人などの発信力のある人がクオリティが低いモノを安く広めた。お客は質で選ばず、人で買うようになった。だからホンモノを見る目が肥えず、本当にイイモノが売れない傾向になった。これがアパレルの現状推測だ。」といった話題が出たと書かれています。

つまりこうした潮流は古着業界のみならずアパレル業界全体に言える昨今の現状なのだと思います。

こうした現象は経済学的に言えば「情報の非対称性」によって産み出されています。

私自身は医療関係者なので、経済学の知識は専門の皆様から見れば皆無に等しいので、間違いもあるかもしれませんが、情報の非対称性とは「売り手と買い手が保持している情報量に格差がある」ということです。

例えば、100万円の中古車Aと30万円の中古車Bがあるとすると、勿論、売り手は両方の車の状態や年式などの情報があり、100万円の中古車Aには100万円なりの理由があり30万円の中古車Bには30万円なりの理由があって値段を設定しているはずですが、買い手には何か情報源がないと見た目と値段以外に何も情報がありません。

何の情報もない100万円の中古車Aと30万円の中古車Bでは、普通、みんな中古車Bを選択します。

これがアドバースセレクション(逆選択)という現象で、情報の非対称性が存在すると、質の悪いものばかりが流通してしまうという結果を産み出します。

こうした情報の非対称性はアパレルにも同じことが言えます。

特に中古車と古着なんて、とてもよく似た立場です。

この「情報の非対称性」を解消する方法が以下の5つと言われています。

1.第三者の介入
2.シグナリング
3.標準化
4.自己選択メカニズム
5.政府の規制

第三者の介入は例えば専門誌だったり格付け業者だったりが情報を買い手に提供することを言います。
シグナリングは労働市場における資格などとされています。面接を受けに来た人がどんな能力を持っているかを知るのは難しいが資格というシグナリングがあれば、その人がどんな能力を持っているかを知ることが出来ます、
僕が勉強した本では、標準化はフランチャイズ化など、「フランチャイズのお店は一定以上のレベルのものが提供される」という例が提示されていました。
自己選択メカニズムは「情報を持つ側に、自ら情報を開示するように仕向ける仕組みのこと」です。

これを古着業界に当てはめると、古着という特殊な商品にはこの「情報の非対称性」がよく当てはまります。

同じように見えるジーパンでも古着市場ではそれぞれに価値が変わります。



一方は50万円、一方は500円なんてことも起こり得ます。

何も情報がなければ50万円のジーパンと500円のジーパンなら人は500円の方しか買わないというアドバースセレクションが起こります。
情報がなければ「XX」も「BIG E」も「赤耳」も一般の消費者にはそれが何かもわからなければ、価値もわからないわけですから。

以前、ヴィンテージが売れに売れた時代は雑誌「FREE&EASY」やMONOマガジン別冊の「古着屋さん」シリーズはじめ、情報誌がヴィンテージに関する情報を競い合うように買い手に出してくれました(第三者の介入)。



これにより消費者は雑誌から得た知識や情報を頼りに良い物価値のある物を選択していましたが、ファッション誌が売れなくなり、各ファッション誌が廃刊などに追いやられている現在、この第三者の介入が非常に弱くなっています。

シグナリングは古着には難しく、それぞれの商品を格付けする団体でもあればよいですが、それがないので、一般的には気になる商品があれば楽天など大きなECサイトで検索して、「古着屋JAM」などの大手古着屋さんの付けている値段と比較するぐらいでしょうか。

そして、この「古着屋JAM」などの大手古着屋さんの付けている値段と比較する事自体が古着屋JAMさんの「標準化」であり「古着屋JAMの商品なら少なくとも一定レベル以下の商品はない」という保証に繋がりますが、ここまでブランディングが成功している古着屋さんはほとんどないでしょう。

ちなみにこの情報の非対称性を解消するブランディングの成功に関しては古着屋JAM福嶋社長に一度、質問した事があります。そのお答えが実にこのブランディングに適した回答だったので、物凄く唸ったことがありました。

そして、「自己選択メカニズム」。
以前はブログが全盛で、更にFREE&EASYなどのお陰もアリ、古着屋さんのブログでもヴィンテージや古着に関するたくさんの知識や情報が発信されていました。
僕達と同じ世代の古着ファンは、僕も含め当時の古着屋さんのブログに育てられた人も多くおられることと思います。

ですが、最近はインスタの人気獲得によって「ヴィンテージ」とか「ディテール」「歴史」「素材」というところのバックボーンが軽視されるようになり、「見た目が格好いい」「見た目がオシャレ」「安い」などのポイントが重視され、古着屋さんの情報発信もコーデが格好いいかどうか、画像がオシャレかどうか、といったところに主眼が置かれるようになりました。

そうした経緯もあり、売れる服も「品質が高い」「価値が高い」ものよりも、「見た目が良い」「値段が安い」という表面的な面が評価されたものが売れるようになりつつあります。

ですが、残念ながらここには、もっと大きな資本・発信力を持つファストファッションブランドやセレクトブランドが凌ぎを削るスーパーレッドオーシャンであり、「安い」「オシャレ」を売りにしているこうした巨大戦力と戦わなければいけません。

この間、例えばユニクロは実に多くの情報を発信し、表面的な「安い」だけが認識されて「安かろう悪かろう」だった一般の評価を「ユニクロでも最近はええの売ってる」から、「ユニクロは信頼出来る」という領域にまで押し上げています。

前述、古着屋JAMではオンラインサイトをメディア化し、さらには自社でフリーペーパーを発行するなど、情報発信を強化されていますが、ここまで資本を注入して情報発信出来る古着屋さんはそうはありません。



でも、じゃあ古着はもう売れないのかというと、そうでもなくて、元来、我々古着ファンは販売員さんからたくさんのことを教えてもらい、ブログからたくさんの知識を与えてもらい、僕達古着ファンは育ってきました。

僕は元BIGMANの徳永君や工藤君がいなければ古着にこんなにハマらなかったし、90年代にサウスブロンクスにおられた村田さんがおられなければきっとリバースウィーブにこんなにもハマらなかったし、元スリフティの沖田君がいなければ野球Teeにハマることもなかったはずです。

一時、「ディテールとか気にしないほうが格好いい」というアンチテーゼ的思想がもてはやされたこともあり、今でもそうしたショップや販売員さんも多数おられるので、以前に比べるとそうした一面は薄らぎつつある気もしますが、それでも今、現場で立っている販売員さんでも、例えば「SLOWLIFE&CO.」のやっさんやGRIZZLYの岩月コウスケ君、大先輩のお名前を出すのは大変恐縮ですが、サニーサイドアップの松本さんなど、手に取った商品のバックボーンをしっかりと教えてくださる販売員さんがたくさんおられます。
またマグネッツさんのブログとか、雑誌より貴重な情報が発信されているブログもあります。

再び、こうした地道に情報を発信し、たくさんの知識を有した古着屋さんに脚光が当たる日が来ると良いな・・・、そしてその結果、古着の情報を発信するメディアがもっと増えて行くと嬉しいなぁと期待しながら日々のF-STREETの運営管理を頑張っています。

もっと軟派な運営したほうが目先のアクセスとか取りやすいんですけどね。
この辺は、古着好きが古着屋情報サイトをやっている仕方のない性ですね。

出版関係の方でここをご覧になってくださっている方がいらっしゃれば是非、お伝えしたいのが、古着を特集してくださるならご協力出来る事は無償でも余裕でご協力させて頂きます。
お気軽にお問い合わせください。

また最近、オープンされる古着屋さんから「勇気を出してF-STREETに連絡をした」と仰って頂くことが増えていて、長く運営している功罪だとは思うのですが、決してそんな敷居の高いサイトではありません。
海外買い付けで個人でされている古着屋さんならほぼ99%以上の確率で掲載させて頂きますし、開店の告知なども精一杯させて頂きますので、どうかお気軽にお声掛けください。

むしろそのためのサイトでありブログですので。

古着文化の発展のために「情報の非対称性」に解消に取り組み、そしてその重要性を地道に説いていきたいと考えています。